ギター協奏曲アルバム『コラージュ・デ・アランフェス』
http://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICC-1128

01:《アランフェス協奏曲》


26歳、夏、ついにアランフェス宮殿へ足を踏み入れた。一つ一つが独特の世界を持った、大小様々な部屋たち。一面黄金色の貴族的な部屋にはいったかと思えば、そのすぐ隣は唐草模様で仕上げられた東洋風の部屋へ、さらに進むとアラブ風の小部屋……。宮殿が完成した18世紀、世界から様々な文化がスペインへ流れこみ、貴族と民衆の垣根も低かったというこの時代の空気を、感じた。

『アランフェス協奏曲』もまた、実に色とりどりのフレーズが、タイルのように敷きつめられている。作曲したホアキン・ロドリーゴは、この作品で「貴族的なものが民衆的なものと溶け合っていた18世紀スペイン宮廷の姿」を、描こうとしていたという。気品に満ちたフレーズが聴こえてきたかと思えば、庶民的で親しみやすいフレーズが続く……。このような様々な音色が、『アランフェス協奏曲』の中に共存しているのだろう。

これらの色彩たちをシンプルに提示し、聴いてくださる方は自由に音楽の世界へトリップする。僕が、アランフェス宮殿で感じた個性溢れる音世界を、みなさまにも歩んでいただけたら、幸いである。


02:《北の帆船》


「北から南まで様々な国や大陸から人や文化が集まり、受け入れてきた日本」

日本は、あらゆる文化を受け入れ、共存することで、成り立っている。そのありかたに思いを馳せた林光は、ギター協奏曲《北の帆船》を書いた。琉球に伝わる子守唄や、独特の3音音階で作られるアイヌの音楽など、色とりどりの文化が美しく織り込まれた一曲である。

その姿は、様々な時代と文化を柔軟に受け入れてきたギターという楽器にも通じる。ここで聴かれるギターの音色は、林光が描く幻想世界で解き放たれた、この楽器のまだ見ぬ一面だ。

「北の帆船」とは、琉球では島々を航海する時に目印とする「船星(ふにぶし)」、つまり北斗七星を由来とする。

ヨーロッパで生まれたギターが、日本なるものと出会うとき。
新たな音色が、輝きはじめる。


03:《夢の縁へ》

外国の、大学の講堂のような場所。オーケストラのドレスリハーサルが始まる。演目は『アランフェス協奏曲』。ドイツ人の女性が指揮棒をふっている。ソリストはいない。「そろそろ行っていいんじゃない?」後ろから女性の声がする。ギターを持って、僕はステージにあがる。1楽章の途中から演奏に加わるが、椅子の高さやマイクの位置がズレていて、演奏に集中できない。曲の終盤、聴衆が手拍子を始める。「アランフェス協奏曲で手拍子とは、さすが外国は違うなぁ」と思っていると、ソロパートを吹く金管奏者のひとりが立ち上がって、歩きながら演奏を始めた……。今朝ぼくがみた夢だ。

夢の中では、一つ一つの場面にはストーリーがあっても、それらはいつも断片的。《夢の縁へ》という曲では、分断されたギターとオーケストラ、そして断片化されたそれぞれのメロディーが、美しくコラージュされている。

楽曲の終盤、ギターとオーケストラが一つになるが、ここではどの楽器からもほとんど“B”(シ)の音しか聴かれない。ギターと、オーケストラを構成する各楽器が一つのハーモニー上に並列されるとき、夢が“シ”=終幕を迎え、聴者はその“縁”へ、すなわち現実世界への目覚めへと、いざなわれる。